アメリカ国立衛生研究所(NIH)の研究助成金申請において、生物学的変数としての性別(sex as a biological variable, SABV)の考慮は、以下で説明する方法で記述できる。
1. 性別の影響を考慮した研究デザイン
女性と男性は生物学的性(セックス)と社会的性(ジェンダー)の両方によって特徴づけられるため、研究結果は、セックスかジェンダー、あるいはその両方の影響を受ける可能性がある。セックスに寄与する因子には、DNAにコードされた生物学的特徴と生理学的特徴とがある。これらの影響には、染色体または生化学的相互作用、ホルモン周期と繁殖期、経路と臨床症状が含まれる場合がある。性染色体と性ホルモンの役割を検討する。
2. 生物学的性の影響に関する先行研究の文献を確認する
関心のある研究テーマに関する文献検索に、性別、男性、女性などの検索語を追加する。
3. リサーチ・クエスチョンを立てる際に性別の影響を考慮する
疾患の有病率の性差は、生理学的または病理学的プロセスに性差がある可能性を示唆している。
4. 男性と女性の両方を研究に参加させる
女性と男性の両方を試験群に含める(要因計画法、乱塊法など)。実験条件に男性と女性のランダム化を層別化すること。組織培養にステロイドホルモン処理を加えるといった、予備的な研究を実施すること。性別特異的データがほとんどない、または全くない場合には、男性と女性の両方で値を観察することが適切であるかもしれない。一方、過去に観察された性差が、性別特異的な仮説のきっかけとなる可能性もある。動物モデルを扱う研究者は、メスの発情周期が研究デザインと解析に関連する要因であるかどうかを検討する必要がある。ある研究課題には関連する事柄が、他の研究課題には関連しないかもしれない。げっ歯類において雌雄の間の変動性を調べた研究者らは、メスはどのエンドポイントにおいてもオスより変動が大きいということはなく、オスではいくつかの特性ではかなり変動が大きいことを発見し、発情周期はメスを除外する理由にはならないと結論付けた。
5. 性別ごとに収集したデータを分析し、報告する
男性と女性(オスとメス)の研究結果の特徴を説明すること。また、治療または毒性の影響を男女別に検討すること。性差に起因するデータや、性差に起因する影響が確認された場合は報告すること。分析で性差が検出されても、されなくても、そのことを報告すること。両方の性を用いた研究については、(有意差か否かにかかわらず)性別ごとに集計したデータを含めて報告する方法論での研究計画をあらかじめ策定すること。性別ごとのデータは、将来の研究やメタ分析に役立つ可能性がある。試験的またはメカニズム研究の初期、あるいは生物学的変数としての性別がこれまで考慮されていなかった研究分野では、両方の性別を含め、性別ごとにデータを集計し、得られた結果から導き出せる妥当な一般論について議論することが、第一段階として適切である。性差を調べるためにデザインされた研究の場合、実験計画に、サンプルや被験者数を決定するための効果量の検討と検出力の算出を、必要に応じて含める。
6. 研究結果の解釈における性別の影響を検討する
研究結果の中に性別の影響と思われる傾向はあるだろうか?生物学的変数としての性別を考慮するということは、すべての研究において性差を調べるようデザインしたり、わずかな性差を見分けるためにあらゆるの研究の検出力を強化したりすることを意味するものではない。すべての研究を、ある程度の統計的検出力で性差を検出できるようにデザインすることは期待されていない。科学は多くの分野で発展途上であり、サブセット分析を報告することに価値がある、ということを意味している。複数の研究で確認された同様の傾向は、将来の決定的な性差研究のデザインに役立つだろう。
7. 一方の性別のみで研究を行う理由を明確に示す
一方の性別のみで実施する研究を提案する申請の場合には、その理由を明確に示す必要がある。その理由には、性別特異的な状態または現象(例えば、卵巣癌や前立腺癌)であることや、深刻なリソース不足(例えば、ヒト以外の霊長類)、または生物学的変数としての性別が、課題領域における研究に関連しないことを示す文献や知見などが挙げられる。ある研究分野において性差に関するデータが欠如していることは、そのこと自体で、一方の性別のみを研究することを強く正当化するものではないことを認識する必要がある。
8. 研究知見の適切な一般化
研究計画書だけでなく、進捗報告書や出版物においても、使用した試料、方法、分析から得られる知見の適用範囲が限定的であることを認めること。研究者は、性差の影響は年齢やその他の生物学的変数によって変化する可能性があることに留意すべきである。したがって、若い成体における性別特異的なデータは、幼年期や高齢期の動物に一般化できない可能性がある。
引用文献
For full text, see Cornelison, T. L., & Clayton, J. A. (2017). Considering Sex as a Biological Variable in Biomedical Research. Gender and the Genome, 1(2), 89-93. Reproduced by permission of the authors.